院長コラム #1ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクターピロリ) 一覧に戻る
ピロリ菌はヒトの胃粘膜に感染し慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がん、リンパ腫、難治性じんましん、特発性血小板減少性紫斑病などを引き起こします。ヒト以外にサル、ブタ、イヌ、ネコなどの胃内に感染します。感染経路は現在でもすべて明らかになっているわけではありませんが、井戸水の中に多く存在するため、井戸水を飲んで生活をしていた世代の感染率は高く、団塊世代以前の感染率は80%以上です。
上下水道が完備された現代の日本ではピロリ菌に感染することはないと考えられています。ピロリ菌はほとんどが5歳までの乳幼児に感染し、大人になってからの感染は極めて稀です。ピロリ菌は胃酸に弱く、強い胃酸のある大人の胃内では生存できません。乳幼児の胃酸は強くないため生存し、感染できるわけです。最近の日本では母から子へなどの家庭内感染が疑われており、食べ物の口移しなどには注意が必要です。
ピロリ菌に感染しても約70%の人は症状が全くありません。何らかの症状が出るのは約30%で前述の胃潰瘍や胃がんを発症した場合のみです。「自分は胃の調子が良いのでピロリ菌に感染していない」というのは間違いです。
ピロリ菌の検査は内視鏡検査をおこなう方法とおこなわない方法があります。おこなう方法は胃粘膜を採取しピロリ菌の有無を調べます。おこなわない方法は吐いた息(呼気)、血液、尿、便などで調べることができます。
ピロリ菌に感染した人の3~5%が将来的に胃がんになるというデータがあるため、ピロリ菌感染が確認された場合、積極的に治療が推奨されます。この治療が除菌療法です。除菌療法は内服薬による治療で2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌抑制薬を服薬します。1回目の治療(1次除菌)で除菌できない場合は2次除菌、2次除菌でだめなら3次除菌となりますが保険適用は2次除菌までです。
胃がんは日本人に多いがんの一つです。2020年には42000人以上の人が胃がんで亡くなっています。(男性27700人、女性14500人)ピロリ菌を除菌することによって高い確率で胃がんの発生を抑えることができます。ピロリ菌検査をおこなったことのない人は1度検査してみてください。また、ピロリ菌感染が確認されている人は、是非、除菌療法を受けて下さい。