院長コラム #4子宮頸がん検診と子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン) 一覧に戻る
子宮頸がん検診と子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)①
近年、子宮頸がんは検診とワクチン接種の普及により多くの先進国で減少しています。残念ながら日本では患者数・死亡者数共に増加傾向にあり、年間で約1万人が罹患し、約2800人が死亡しています。1985年頃では50才以降に患者数が増加していましたが、2015年頃からは30才台から増加する傾向にありピークが若い世代へ変化しています。子育て世代の母親が家族を残して亡くなるため大きな問題となっています。
子宮頸がんのほとんどはヒトパピローマウイルス(以下HPV)が性行為により子宮頸部に感染することが原因です。HPVは珍しいウイルスではなく、性行為の経験がある女性の60~80%、男性では90%以上が感染していると考えられています。男性では陰茎部への感染であり陰茎癌との関係が確認されています。また、良性腫瘍である尖圭(センケイ)コンジローマは膣や陰茎、肛門など男女共にできる可能性があります。
HPVに感染してから子宮頸がんが発生するまでには数年から数十年を要します。感染した正常な細胞がHPVによって変異すると前がん病変となり、更に子宮頸がんに進行します。前がん病変では一般的には症状がなく、多くは子宮頸がん検診で発見されます。前がん病変やごく初期の子宮頸がんで発見された場合は子宮頸部円錐切除術(子宮頸部のみを切除する手術)をおこなえるため子宮が温存されます。
しかし、この手術後に妊娠しづらくなったり、妊娠しても早産や流産のリスクが高くなることもあります。進行した子宮頸がんで発見された場合は根治手術や放射線療法、抗がん剤治療などがおこなわれますが、妊娠はほぼ不可能となり排尿障害や下肢のリンパ浮腫、ホルモン欠落症状などの後遺症が残ることがあります。子宮頸がん検診で早期発見・早期治療することにより死亡率を下げることも重要ですが(2次予防)、妊娠や出産に影響を及ぼすことが多く子宮頸がんにかからないようにすることがより重要です(1次予防)。ここで登場するのが子宮頸がんワクチンです。
子宮頸がん検診と子宮頸がんワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)②
ヒトパピローマウイルス(以下HPV)は150種類以上あります。そのうち子宮頸がんを発症させるのは15種類以上、日本では更にそのうちの2種類が多くを占めます。この2種類は子宮頸がんワクチンによる予防が可能です。
日本では2009年から接種が認められ、2013年4月には予防接種法に基づき小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に公費接種が導入され、無料で受けられるようになりました。政府も積極的勧奨をおこないました。しかし、一部の新聞社のアンチキャンペーン、接種後に体の痛みや運動障害など「多様な症状」が多数出ているというメディアの大々的な報道、国会議員の反ワクチン発言などがありました。そのため政府は2013年6月に積極的勧奨を差し控えると発表しました。後の調査ではワクチン接種と「多様な症状」との関連性はないと判明しました。
子宮頸がんワクチン接種をおこなっている国で「多様な症状」が多数出ているというのは日本だけで、過剰な報道などが思春期の女子の不安を煽った可能性が高いとも言われています。2019年頃までは接種率は数%という状況が続きましたが、安全性に特段の疑いが認められないという研究結果受けて徐々に上昇、2022年4月には政府が積極的勧奨を再開しました。
積極的勧奨再開までの約8年間で対象外になってしまった人に対しては、改めて公費で接種できるキャッチアップ接種もおこなわれています。2022年7月には接種率が20%近くまで上昇しましたが欧米諸国やオーストラリアの50~80%と比較するとまだまだ低い接種率です。
90%以上の女子がワクチン接種すること、70%以上の女性が適切な検診を受けるなど、いくつかの条件を満たせば今世紀中に子宮頸がんは排除可能であるとのシミュレーションがなされています。子宮頸がんワクチン接種対象のお子さんをお持ちの方は、ぜひ、子宮頸がんワクチンを考えてみてください。
それから、HPVは男女間で感染を繰り返すため、男子にワクチン接種をすることも必要です。男子のワクチン接種の目的は、男子本人のHPV感染による病気(陰茎癌、尖圭コンジローマなど)の発症を予防することと自分が感染源にならないことです。多くの国で推奨されており、20か国以上で公費負担による接種がおこなわれています。日本では公費負担はありませんが、2020年12月から任意接種で受けられるようになりました。